患者指導
「お酒飲まないって言ったか?」診察室に響き渡る声
「ここ出るとき自分から誓約書持ってきましたよね。」と医師。
「そんなこと言ってない。ただ名前書いただけだ。内容なんて知らん。」ととぼける患者。
「これ見てみなさい。あなたの字でしょ。」誓約書には本人の字でお酒は飲まないと書いてある。サインだけじゃなくて文章も自作。誤魔化しようがないが、患者さんはそれでも抵抗。
「名前書いただけだって行ってんだろ!だいたい試しに少し飲んだだけなのに何でここにいなきゃいけないんだ!」
押し問答すること10分。患者さんの理論は完全に破綻。医療保護入院であえなく入院。保護室へ誘導する。
「あのやぶ医者、いつもああだ!俺の言うことは聞かない。」
保護室誘導までの間、看護師に愚痴っている。
面白いのは自身が何で入院に至ったのか、全く話にでてこないことだ。ひとしきり文句を言うが、自身が原因であることは忘れてしまっている。こういう人に飲酒の教育をしていくのは難しい。お酒は悪くないという表現をしたりする。そういう患者さんにはいつもこう言っている。
「お酒は悪くないと思います。でもね、お酒と〇〇さんが一緒になると悪さするんですよね。悪い友人みたいなもんじゃないですか?だから付き合うの止めないと。」
理解はされないことが多いが、心の奥底に刷り込むことも必要なのかもしれない、そう思って指導している。依存症は自分自身の気持ち次第という側面も大きい。日々報われない指導も必要だと考えている。
入浴介助日
「はい、次!!」
助手さんの勢いある声が浴室に響き渡る。焦る看護師。着替えが追い付かない。
週明けと週末の戦場。そう、介助入浴の日。
毎日お風呂に入れれば理想だけど、入浴に介助のいる人は週2回から3回程度の入浴で我慢してもらっている。失禁があると特別サービスで1回増えたりする。夜中の寒い時間だったりするけど。
入院する年齢もどんどん上がり、アルコール依存症というよりは認知症の患者も多い。アルコール依存症だったのは遠い昔。老人介護施設に入れなかった人が、アルコール依存症という病名をつけて入ってきたりする。先日来た患者も84歳と82歳。
入浴介助はさらに続き、だんだん殺気立っていく浴室内。
助手さんが入浴介助をするから少し適当なところも出てくる。
「この人髪の毛ないじゃない、全身ボディーなんだからボディーソープで洗っちゃいな!」
年齢も高いから髪の毛は風前の灯。それ言っちゃダメだろと思いつつも少し笑ってしまった。
過激な助手さん、入浴後にいつもリポビタンDを飲んでいる。
「これがないと後半動けなくなるのよ。」
70歳に近い助手さんまだ働けそうです。
【精神科看護師アルアル】神の手
「穿刺しといたよ~。あとよろしく」
「ありがとうございました。」
後輩から頼まれた穿刺(点滴用の針を入れること)を終えて一息。ごくたまに先輩ずらできる場面。それ以外はいつも低姿勢。
20年近く仕事してきて思うのは、穿刺は「センスと度胸」
穿刺は看護の技術だから経験すればうまくなるけど、センスがいるとも思っている。
私が出会った看護師さん、
穿刺する前は手が震えて大丈夫かと思うような状況だけど、刺す瞬間・・震えていた手が止まり血管にピタリと入る。血管がそもそもそこにあるのか?と思うところにいれてしまう。刺した後は震える手で固定している。血管をとらえる技術は他の看護師を圧倒していた。そう、まさに「神の手」
この看護師さん曰く「自分の手じゃないんだから、思い切ってやればいいのよ。」度胸も必要なんだと初めて思った。この時のことは鮮明に今でもよく覚えてる。
いままで20年近い経験をしているが、「神の手」には2人しか出会っていない。この先何人の「神の手」に出会えるかな~。
【精神科看護師アルアル】夜勤の物々交換
「ここに置いておくね~」
夜勤のとある光景。これは看護師の謎の習慣『夜勤の物々交換』
看護の世界では夜勤者同士でお菓子やジュースを持ってきては交換するという習慣がある。20年近く前、私が夜勤に初めて入った日からあった習慣。なぜかいまだにその習慣が残る病院もある。
毎回、夜勤の度に物々交換が必要で、それを買いに少し早く仕事に出たりしなくちゃいけない。出費も痛い。人によっては、こんなジュースどこで買ってきたんだという見たこともないような銘柄のジュースだったり、味がおかしいポテトチップスだったりする。できるだけ安く上げたい経済学も看護師には働くから、格安で買ったりしてきているから実験的な物を渡されることもある。
一度止めようと言った話も出たみたいだが、どうしても止められない看護師がいて挫折したこともあったみたい。
看護の世界には特有の習慣がある。そういう意味では特殊な職場なのかもしれない。
「ありがとうございます。これ食べてください。」
物々交換で本格的に夜勤が始まっていく。
精神科的未来日記
「病棟移動してきたみたい。〇〇さんとキスしていたの目撃されたらしいよ。」
男女が同じ病棟にいれば男女間の恋愛も起きやすい。病院にもよるけど、男女混合の病棟もある。依存症は年齢層が案外幅広いし、薬物依存の患者さんは特に若い人が多いから厄介。
彼氏が変わったり、彼女が変わったりして、見ているこちらは案外楽しかったりもする。まるで昔のTVにあった「未来日記」。
そんな楽しい恋愛模様もあるが、たまに降られて精神的に病んでしまう人もいる。依存症治療にきているのに、失恋の病気にかかってそっちの方が重症になったりしちゃうから問題。最近だと、ふられた腹いせに大声上げて、まったく関係ない患者に当たり散らした挙句、止めに入った看護師に蹴りいれた女性もいた。
性欲が抑えられない人も中にはいて、病棟の視覚でHしようとしたところを止められたり、同意してHしたのに警察に無理やりされたと訴えたり、いい加減にしてほしい場面もちらほらある。
恋愛は自由でいいです。
でもね、迷惑かけるようなことしないでください。依存症の治療にきているわけですから、そちらに集中しましょう。
カオス
「お前が悪いんだろ!!」
廊下に響く大声。周囲は騒然。看護師数名がその患者のもとへ向かう。時々起きる患者同士の喧嘩。仲裁も一苦労。
集団生活なんてしてこなかった人たちもいれば、法を犯して規律正しい集団生活を経験してきたツワモノたちなんかが、入り乱れているカオスな病棟。それだけに気に入らないことがあったりすると喧嘩も起きる。
理由は単純。寝ていたところに、たまたまベットにぶつかって起こされたというどうでもいい理由。でも、患者さんはそれが許せなくてヒートアップ。そして話は訳が分からない方向へと進んでいく。
最後の締めくくりは・・
「俺をなめんじゃないよ。刑務所にも何度も入っているだぞ。」
そういう強いアピールいりません。刑務所に入っているの自慢になりません。そう思いながら患者さんをなだめる。一般社会でこんなこと起きたら、警察沙汰だし恐喝に当たるような出来事。
アディクション(依存症)の患者さんはストレスへの脆弱性がある人が多いように感じる。怒りの感情をコントロールするのが苦手だし、閾値が低い。家庭環境がそれほど良くない人が多いのも特徴。倫理観や自己抑制を覚える時期に親がいない生活をしてきている人もいる。
「育て直し」と言ってた看護師もいた。大の大人に倫理観や感情のコントロールの仕方を教えるのは難しい。特にMR(発達障害)があって、IQが低い人に教えるのはかなり骨が折れる。
精神科の看護師には父性と母性の両方が必要だと感じている。父性はルールや倫理観を教え、母性は話を聞いて心のよりどころを作る。ただ現実的にはあまりバランスがいいとは言いにくい。強い言動のおばちゃん看護師が多いから。患者さんと喧嘩になる看護師もいて、どちらが病気なのかわからない時もある。
人を扱う仕事は大変だな~。
【精神科看護師アルアル】おばちゃん看護師
「今日も〇〇さん、話してばっかりだね。」
お前も話好きだけどな・・と心の中で叫ぶ。おばちゃん看護師が多いのが精神科病棟の側面。それだけに噂や文句が多い。そのくせ、患者対応はしないなどの問題が多い。仕事もあまり忙しくないことも影響している。
「リーダー業務もできません。」おしゃべりリーダーなのに?
「薬業務??間違えちゃうからできない。」仕事選ぶなよ。
「〇〇さんのことやっといてくれる?」お前が担当だろ?
「注射?老眼だから若い人に任せるわ。」老眼鏡持ってやれよ。
できない族のおばちゃん看護師。ときどき暴走する看護師もいて、気に入らないからと有給にして帰ってしまう人もいる。まさに暴走族。
これまた多いのが威張る看護師。特に新人には冷たい。新人に冷たいのは看護師の世界では多いが、女性特有の文化なのかもしれない。長く看護師やっててよく見るのは、自分がされて嫌なことを相手にする、自分が嫌なことをされると人一倍騒ぐ。これも看護師に多い。特に独身女子。
以前、あまりに新人をいじめるから全員の前で注意してやったら、うつ病で休職してしまった。そういう看護師に限って注意されると心がすぐに折れてしまう。そんなわけで、辛辣で魑魅魍魎が住む世界、それが看護の世界。
おばちゃん看護師すべてが悪いわけじゃないですよ。いい人もたくさんいます。明日も頑張ろう!