アディクション看護師の日日是好日

依存症治療病棟で起きる日々の出来事を日記のように書いてます。

歓喜の声のなか換気

「やった~!!!」

 

歓喜の声が病棟内に響きわたる。

 

保護室内まで響く歓喜の声。たぶん、WBC優勝・・。

 

「痛いからやめてよ!」

 

と、目の前の怒り狂う患者を抑えながら敵便中。心は歓喜の渦。指は肛門の渦の中。

 

 

一緒に歓喜の輪に入りたかった。歓喜じゃなく換気・・。

 

 

昨日から病棟内視聴率は7割。普段アルコール依存症のプログラムに出てこない人まで真剣にTVを見ている。アウトひとつ、ホームランひとつに一喜一憂している。

 

今日はプログラム中止したらいいんじゃないかという意見もあった。もはや国民的行事なのに、プログラムなんて真剣にやる人はいない。それでも強行する作業療法士。しかし、一部の怖い看護師からの意見で、プログラムを早めに切り上げてTV見ることにしたらしい。

 

こういう日はあってもいいと思う。年齢関係なく同じ気持ちでいるってなかなかない機会。看護師的な言い方すれば「共感性」を持つって大切。アルコール依存症の問題点は相手の立場に立てない共感性の欠如も大きな問題点だから。

 

 

看護師の話抜きに、年齢を重ねると感動とか、共感するとか、そういうのがなくなってしまう。ERというアメリカドラマの中でのワンシーンにカーター先生が患者家族から言われたひとことがある。「先生のように一生に一度でいいから人に感動を与えることができたらいいな」と。そういう看護師を目指したい。

 

感動的なシーンはYouTubeでみるか。

 

本当に日本の選手の皆さん、おめでとう!!そして、ありがとう!!

看護室の窓口は「なんでも相談窓口」

5:45 そろそろ起床時間。空が明るくなってきた。

 

88歳のおじいちゃんが看護室へ

 

「すみません。ちょっと質問が・・・夕食給仕してもらったっけ??」

 

本人は真剣。笑っちゃいけないが、こらえられない。

 

「給仕しましたよ。いま、朝です。」

 

キョトンとしている。不思議そうな顔をして部屋に戻っていく。普段は寝ていて、食事の時だけ食堂に姿を現す。アルコール依存症の患者さんだけど、高齢でプログラムには当然のらない。自宅では大虎で、飲んでは孫にまで暴力振るう酷い依存症患者。家族からは「島流し」にあって入院になっている。当然、自宅じゃないし認知症は進む一方。

 

起床後に別の患者さん。

 

「聞きたいことがあるんだけど、ここは大きいどら焼き買える??」

 

そういう内容は日中聞きに来てほしい。夜勤帯でどら焼きのこと知っている人いませんから。この患者さん、統合失調症もあって時々話がまとまらなくなる。しかも、2週間前までイレウス(腸閉塞)で死の堺をさまよってた。食べたいという意欲は死をも凌駕してしまう。

 

さらに別の患者。

 

「検尿持ってきたけど、ここから出していい?」

 

窓口から並々尿のはいったコップを渡そうとしてくる・・・。こぼれちゃうから、やめて。

 

 

看護室の窓口はある意味「なんでも相談窓口」

 

今日もいろいろな患者さんが看護師に会いに訪れます。

身体拘束

「服で自殺しようとしたみたい。たまたま見つけたみたいだけど。」

 

「動画残っているからみてみたら?」

 

と日勤業務のリーダーから話。画像見ると確かに衣服を柵にかけて首を吊ろうとしている。アルコール依存症も攻撃的な感じに変貌する人もいれば、抑うつ的になって自殺を考えてしまうような人もいる。感覚的には8:2くらいの割合。

 

この患者さんに限っては、ストレスへの閾値が低く、家族への過度な依存もあって年齢以上に幼い。パフォーマンス的に自殺しようとしてしまう。

 

短期的にはなるけど身体拘束をしながら患者さんの身を守り、薬剤調整をしていく。そんなわけで、出勤したら拘束されていた。

 

若い医者だけになかなか薬剤調整がうまくいっていないのも原因。若い医者に限って、看護師の意見を聞かないから余計に困る。精神科看護の面白いところは、理論じゃない部分、五感というか経験に基づく「勘」も看護の要素のなかで重要。患者のちょっとした変化をとらえる力が凄い看護師もいる。この患者さんの自殺企図がありそうだから気をつけろと最初に言っていたのも、経験が長い看護師さん。

 

なんでも理論、エビデンスという風潮が看護の中にも定着してきている。それは確かに重要。「勘」を理論的に説明しなきゃいけないのは分かっているが、そうはいっても難しい。

 

 

人を扱っている以上、いろいろなことが起こりうる。特に精神科では自殺の問題もある。どんなに警戒していても防ぎきれないのも事実。20年近く仕事しているが、飛び降り現場や首つり現場を目撃することもあった。普通に生活していたら考えられない現場を何度も経験している。仕事とはいえ、きつい時も時々あった。

 

それだけに、これからももっとその観察眼というか「勘」を磨いていきたい。

患者指導

「お酒飲まないって言ったか?」診察室に響き渡る声

 

「ここ出るとき自分から誓約書持ってきましたよね。」と医師。

 

「そんなこと言ってない。ただ名前書いただけだ。内容なんて知らん。」ととぼける患者。

 

「これ見てみなさい。あなたの字でしょ。」誓約書には本人の字でお酒は飲まないと書いてある。サインだけじゃなくて文章も自作。誤魔化しようがないが、患者さんはそれでも抵抗。

 

「名前書いただけだって行ってんだろ!だいたい試しに少し飲んだだけなのに何でここにいなきゃいけないんだ!」

 

 

押し問答すること10分。患者さんの理論は完全に破綻。医療保護入院であえなく入院。保護室へ誘導する。

 

「あのやぶ医者、いつもああだ!俺の言うことは聞かない。」

 

保護室誘導までの間、看護師に愚痴っている。

 

 

面白いのは自身が何で入院に至ったのか、全く話にでてこないことだ。ひとしきり文句を言うが、自身が原因であることは忘れてしまっている。こういう人に飲酒の教育をしていくのは難しい。お酒は悪くないという表現をしたりする。そういう患者さんにはいつもこう言っている。

 

「お酒は悪くないと思います。でもね、お酒と〇〇さんが一緒になると悪さするんですよね。悪い友人みたいなもんじゃないですか?だから付き合うの止めないと。」

 

理解はされないことが多いが、心の奥底に刷り込むことも必要なのかもしれない、そう思って指導している。依存症は自分自身の気持ち次第という側面も大きい。日々報われない指導も必要だと考えている。

入浴介助日

「はい、次!!」

 

助手さんの勢いある声が浴室に響き渡る。焦る看護師。着替えが追い付かない。

 

週明けと週末の戦場。そう、介助入浴の日。

 

毎日お風呂に入れれば理想だけど、入浴に介助のいる人は週2回から3回程度の入浴で我慢してもらっている。失禁があると特別サービスで1回増えたりする。夜中の寒い時間だったりするけど。

 

入院する年齢もどんどん上がり、アルコール依存症というよりは認知症の患者も多い。アルコール依存症だったのは遠い昔。老人介護施設に入れなかった人が、アルコール依存症という病名をつけて入ってきたりする。先日来た患者も84歳と82歳。

 

入浴介助はさらに続き、だんだん殺気立っていく浴室内。

 

 

助手さんが入浴介助をするから少し適当なところも出てくる。

 

「この人髪の毛ないじゃない、全身ボディーなんだからボディーソープで洗っちゃいな!」

 

年齢も高いから髪の毛は風前の灯。それ言っちゃダメだろと思いつつも少し笑ってしまった。

 

 

過激な助手さん、入浴後にいつもリポビタンDを飲んでいる。

 

「これがないと後半動けなくなるのよ。」

 

70歳に近い助手さんまだ働けそうです。

 

【精神科看護師アルアル】神の手

「穿刺しといたよ~。あとよろしく」

 

「ありがとうございました。」

 

後輩から頼まれた穿刺(点滴用の針を入れること)を終えて一息。ごくたまに先輩ずらできる場面。それ以外はいつも低姿勢。

 

20年近く仕事してきて思うのは、穿刺は「センスと度胸」

 

穿刺は看護の技術だから経験すればうまくなるけど、センスがいるとも思っている。

 

私が出会った看護師さん、

穿刺する前は手が震えて大丈夫かと思うような状況だけど、刺す瞬間・・震えていた手が止まり血管にピタリと入る。血管がそもそもそこにあるのか?と思うところにいれてしまう。刺した後は震える手で固定している。血管をとらえる技術は他の看護師を圧倒していた。そう、まさに「神の手」

 

この看護師さん曰く「自分の手じゃないんだから、思い切ってやればいいのよ。」度胸も必要なんだと初めて思った。この時のことは鮮明に今でもよく覚えてる。

 

 

いままで20年近い経験をしているが、「神の手」には2人しか出会っていない。この先何人の「神の手」に出会えるかな~。

【精神科看護師アルアル】夜勤の物々交換

「ここに置いておくね~」

 

夜勤のとある光景。これは看護師の謎の習慣『夜勤の物々交換』

 

看護の世界では夜勤者同士でお菓子やジュースを持ってきては交換するという習慣がある。20年近く前、私が夜勤に初めて入った日からあった習慣。なぜかいまだにその習慣が残る病院もある。

 

毎回、夜勤の度に物々交換が必要で、それを買いに少し早く仕事に出たりしなくちゃいけない。出費も痛い。人によっては、こんなジュースどこで買ってきたんだという見たこともないような銘柄のジュースだったり、味がおかしいポテトチップスだったりする。できるだけ安く上げたい経済学も看護師には働くから、格安で買ったりしてきているから実験的な物を渡されることもある。

 

一度止めようと言った話も出たみたいだが、どうしても止められない看護師がいて挫折したこともあったみたい。

 

看護の世界には特有の習慣がある。そういう意味では特殊な職場なのかもしれない。

 

「ありがとうございます。これ食べてください。」

物々交換で本格的に夜勤が始まっていく。