アディクション看護師の日日是好日

依存症治療病棟で起きる日々の出来事を日記のように書いてます。

「〇〇さん、元気?どうしちゃったの?こんなところで。」

 

「あんたもこんなところで何してんの?」

 

お互いアルコール依存症の患者さんの会話。どうしちゃったも、こうしちゃったもないと思うが会話は盛り上がっている。

 

話しかけたのは60歳代後半の女性患者さん。話かけられたのは80歳代の男性患者さん。顔見知りで近所に住んでいたらしい。女性患者さんは山登りが趣味で、登山口にある男性患者さんの家の前をよく通っていたらしい。時々、男性患者さんが家の前に出てきていて、その患者さんに話かけていたみたい。

 

女性患者さんはお酒を飲んでいるときは、自宅玄関で尿失禁したり夫に暴力振るったりする大虎。男性患者さんも酩酊状態で被害妄想に暴言暴力で警察沙汰になって拘置所から直行してきた大虎。そんな2人も、お酒がない病棟では虎が猫になり普通の近所のおじさん、おばさん。

 

結局、お互いの事情には触れず会話は終了していた。そりゃ依存症治療の病院に入院しているわけだから、薄々は事情は分かっているはず。

 

患者の中には案外近所に住んでいる人も多い。世間は狭いな~と改めて感じてしまう。地域には表に現れないだけで、依存症の患者さんは多いのかもしれない。

チャットGPT

「チャットGPT?新しい検査の名前?肝機能の新しい指標なの?」

 

時代についていけない、おばちゃん看護師さん。

 

肝機能はガンマGPTです。話しているのは今流行のAI。今でも手書きの看護記録書いている人からしたら、AIなんて未来人が到来するくらいの出来事。

 

LINEも電機店でお金払って新しくアカウント作ったというから驚き。そうまでしてLINEやる必要あるのかが疑問。広告の裏に手書きで手紙でも十分だと思うけど、達筆すぎて字の解読が困難な時があるから、LINEがいい手段なのかもしれない。

 

どうしても精神科の古い施設はいまだに手書きが多い。カルテは分厚くなり、A4やB5など紙の種類も豊富で無駄だらけ。昭和の感じがいまだに残る。

 

そのうち看護業務もAIがやるのかな~。AIの上司が表れて、無駄話している看護師や患者対応が悪い看護師は査定が低くなったりして。

 

 

シンデレラ

「全然起きないんですよね。薬が効いちゃってるみたいで。」

 

保護室担当している看護師からの申し送り。寝ちゃって起きない??シンデレラか??そんなカワイイ感じじゃなく、80台も中盤のアルコール性認知症患者さん。

 

片や一般病床の患者さんの申し送り。

 

「朝食食べれなかったみたいです。眠気強くて。」

 

40歳代のアルコール依存症の患者さん。寝れないからと診察時に話が出て、だいぶ薬を盛られたらしい。

 

薬は医者のさじ加減。薬の盛り方が悪いとあちこちでシンデレラが続出。シンデレラ程度ならいいが、アルコール飲んでないのに酔っ払いオヤジが続出して、けが人が出たりする。寝ることは重要だけど、やりすぎは問題。

 

夜勤をやる身としては、尿失禁するくらい寝入ってしまう人が多いほうが楽。先日は中途半端に眠剤が効いちゃって、トイレで力尽きでトイレの床で寝ていた患者さんもいた。そんな事態は夜勤では極力避けたい。

 

医師を説得して薬剤を調整してもらうのも看護師の大事な役目。患者さんが医師の前で話すことは現実とはかけ離れていることも多いから。患者さんを守り、自分の身を守る意味でも精神科での薬剤調整は、シビアにやってもらえるようアンテナをはり、医師に理論的に伝える技術が必要。

 

正直、医者に話すのストレスも多いです。医者が精神科患者だったりするから。明日も頑張ろう!!

【精神科看護師アルアル】過疎地域の村

「初めまして。よろしくお願いします。」

 

新しい看護師さんから挨拶。と言っても、新人看護師じゃなくて、オールド看護師。4月は一般的には新社会人の入社時期。でも、精神科では新人さんはほとんど来ない。看護師は精神科には新人で入ることはまれだから。

 

新人の看護師は3年間は一般科で経験を積みましょう!ということをよく言われている。一般科の厳しい看護と身体を見る思考を養うには必要な経験。精神科なんかにいきなり就職したら、「身体のこと全然見れない看護師」というレッテルを貼られてしまう。

 

「精神科看護師アルアル 看護師2軍」でも書いたが、どこかで経験を積んだ看護師が入職してくる。今回もそんな感じ。

 

今度の看護師さんは別の病院で働いていたけど、待遇に不満があってきたみたい。看護師は資格で職場を動けるから、気に入らなければすぐに辞めてしまう。

 

最近、別の病院では上司の変更に伴う不満と待遇の悪化で、大量に看護師が辞めてしまい、病院自体が傾いているらしい噂を聞いた。どこの業界でも人手不足だけど、看護師はもっと集まらない。人で成り立っている職場だから、人をないがしろにしがちな職場は、慢性的な人出不足→看護師の疲弊→看護師の退職という負のループに陥ってしまう。

 

その点、どういうわけか、精神科は案外安定している。無理なく働けるし、残業もほとんど無いから、安定的に働けるからかもしれない。

 

 

新人さんのいない精神科病院。過疎地域の村みたいな職場です。

火事

「数があってない!!アクシデントレポート書かないと!!」

 

大騒ぎするおばちゃん看護師。

 

久しぶりに薬を担当してもらったが、薬剤の残数が合わないと上司の看護師をつかまえて大騒動。

 

あんたが薬担当してた時、残数どころの騒ぎじゃないくらい薬の数が合わなかったから。始末書レベルでしたよ。心でそう思っていても一度火が付いた看護師にそんなこと言ったら大火事になってしまう。

 

薬の数が合わないのは確かに問題。でも、人間がやることだからどうしてもヒューマンエラーは防ぎようがない。起きたことは起きたこととして、どうして防いでいくかが大切だけど、起きたことを問題視して大騒ぎするから手に負えない。

 

人のことだから冷静に見ている部分もあるけど、もう少し人に寛容になったらどうかと思う。火をつけるよりも火事を防ぎたい。大火事にならないよう延焼を防ぎたい。そういう防火壁的な看護師を目指していきたい。おばちゃん看護師を反面教師にそう思う今日この頃。

病院依存症

「ダルク行くくらいなら、病院に長くいさせてもらった方がいいです。」

 

「本気でそんなこと言いってるの?外にでて自由になりたくないの?」

 

「ダルクって合わないんすよね。行くくらいだったらここに居させてもらいたいっす。先生にもそう言おうと思ってます。」

 

まさかの答えに唖然としてしまった。自由よりも閉鎖された病院での暮らしを望むとは思っても見なかった。

 

20歳代前半の男性、薬物依存症で入院。ダルクは依存症の人が集まって集団生活を送りながら、依存症からの社会復帰を目指す施設。管理された生活をして、ミーティングとよばれる話し合いを連日行っている。

 

本人がダルクへの退院をしたくないのもなんとなく分かる。若くて薬物を使用したことを反省していない状況ではミーティングのような話し合いは苦痛でしかない。病院に居れば3食昼寝付き。プログラムは強制されるわけではないし、ただ毎日を仕事もせずにだらだら過ごせる。何もしたくない本人にとっては理想郷。

 

依存症治療は本人がどうしたいかというモチベーションが大きい。本人が止めたいと希望しないと入院もさせない施設もあるくらい。

 

なかなかこういう患者さんに未来に希望を持たせるのは難しい。今の社会システムは一度落ちてしまうと這い上がるのにかなり苦労するし、支援するシステムが脆弱だと感じる。

 

そんな患者さんたちにどう向き合うかが課題。国としては入院期間をできるだけ減らしていく方向というのは間違ってないと思う。だけど、入院後の受け皿がまだまだ足りない気はする。医療は難しい。

必要悪

保護室が空くまで預かってほしいと依頼があって受けたみたい。」

 

「なんでも受ければいいってもんじゃないよね。」

 

「体よく送られてきたんじゃないの?」

 

夜勤入る前に日勤の看護師が話しているのを小耳にはさんだ。保護室に入っている患者さんのこと。

 

精神科では介護施設ではダメ、児童養護施設でもダメ、刑務所適応じゃない、そんな理由で患者さんが送られてくる。理由で多いのは「暴力」。ついで多いのは身寄りがない、地域では見切れないという患者さん。今回の患者さんは粗暴性が高く、どこも受け入れてくれないという患者さん。10代で一般的に言えば高度行動障害。粗暴性が高くて前の施設では暴力を受けたことのないスタッフがいない状況だったらしい。結構大ケガしたスタッフもいたらしい。

 

アルコール依存症という名の認知症で暴力があれば、精神科で見ることが多い。アルコール依存症じゃなくても暴力が過ぎれば、精神科で面倒を見る。確かに薬剤調整ができて、保護室という環境があるのは理想。『高齢者施設以上・刑務所未満』という立ち位置が精神科だから。今回のようにどこも見たがらない患者さんが入ってくることもある。社会的に見れば島流し的な状況だけど、精神科の看護師目線からすれば「必要悪」な面も大きい。

NHKで最近ある精神科病院の実情を報道したドキュメンタリーがあった。精神科看護師の意見で言わせてもらえば、そういう「必要悪」がなければどこが見るんだ?という歯がゆい感じの報道だった。患者に暴力をするのは完全にNG。ただ、精神科にはどうしても社会的に担う必要な部分もあるということは理解してほしい。

 

海外に努めた経験のある看護師さん曰く、「日本の治安がいいのは精神科の「必要悪」が機能しているから。どこも見切れないような案件の人は刑務所か野に放たれているかどちらかだよ。突然暴力する人が身近にいてもおかしくないのが海外。」だそうだ。

 

 

精神科看護で表になかなか出ない部分は患者からの暴力。妄想対象になればいきなり予告もなく殴られることだってある。そういう世界が精神科。ハイリスクな面もある。患者からの暴力でうつ病になったり、退職する看護師も見てきた。私自身も何度か暴力を受けたこともある。

 

 

緊張感の中での仕事してます。さて、今夜はストロング酎ハイ飲んで寝るか~。