アディクション看護師の日日是好日

依存症治療病棟で起きる日々の出来事を日記のように書いてます。

精神科的未来日記

「病棟移動してきたみたい。〇〇さんとキスしていたの目撃されたらしいよ。」

 

男女が同じ病棟にいれば男女間の恋愛も起きやすい。病院にもよるけど、男女混合の病棟もある。依存症は年齢層が案外幅広いし、薬物依存の患者さんは特に若い人が多いから厄介。

 

彼氏が変わったり、彼女が変わったりして、見ているこちらは案外楽しかったりもする。まるで昔のTVにあった「未来日記」。

 

そんな楽しい恋愛模様もあるが、たまに降られて精神的に病んでしまう人もいる。依存症治療にきているのに、失恋の病気にかかってそっちの方が重症になったりしちゃうから問題。最近だと、ふられた腹いせに大声上げて、まったく関係ない患者に当たり散らした挙句、止めに入った看護師に蹴りいれた女性もいた。

 

性欲が抑えられない人も中にはいて、病棟の視覚でHしようとしたところを止められたり、同意してHしたのに警察に無理やりされたと訴えたり、いい加減にしてほしい場面もちらほらある。

 

恋愛は自由でいいです。

 

でもね、迷惑かけるようなことしないでください。依存症の治療にきているわけですから、そちらに集中しましょう。

カオス

「お前が悪いんだろ!!」

 

廊下に響く大声。周囲は騒然。看護師数名がその患者のもとへ向かう。時々起きる患者同士の喧嘩。仲裁も一苦労。

 

集団生活なんてしてこなかった人たちもいれば、法を犯して規律正しい集団生活を経験してきたツワモノたちなんかが、入り乱れているカオスな病棟。それだけに気に入らないことがあったりすると喧嘩も起きる。

 

理由は単純。寝ていたところに、たまたまベットにぶつかって起こされたというどうでもいい理由。でも、患者さんはそれが許せなくてヒートアップ。そして話は訳が分からない方向へと進んでいく。

 

最後の締めくくりは・・

 

「俺をなめんじゃないよ。刑務所にも何度も入っているだぞ。」

 

そういう強いアピールいりません。刑務所に入っているの自慢になりません。そう思いながら患者さんをなだめる。一般社会でこんなこと起きたら、警察沙汰だし恐喝に当たるような出来事。

 

アディクション(依存症)の患者さんはストレスへの脆弱性がある人が多いように感じる。怒りの感情をコントロールするのが苦手だし、閾値が低い。家庭環境がそれほど良くない人が多いのも特徴。倫理観や自己抑制を覚える時期に親がいない生活をしてきている人もいる。

 

「育て直し」と言ってた看護師もいた。大の大人に倫理観や感情のコントロールの仕方を教えるのは難しい。特にMR(発達障害)があって、IQが低い人に教えるのはかなり骨が折れる。

 

精神科の看護師には父性と母性の両方が必要だと感じている。父性はルールや倫理観を教え、母性は話を聞いて心のよりどころを作る。ただ現実的にはあまりバランスがいいとは言いにくい。強い言動のおばちゃん看護師が多いから。患者さんと喧嘩になる看護師もいて、どちらが病気なのかわからない時もある。

 

人を扱う仕事は大変だな~。

【精神科看護師アルアル】おばちゃん看護師

「今日も〇〇さん、話してばっかりだね。」

 

お前も話好きだけどな・・と心の中で叫ぶ。おばちゃん看護師が多いのが精神科病棟の側面。それだけに噂や文句が多い。そのくせ、患者対応はしないなどの問題が多い。仕事もあまり忙しくないことも影響している。

 

「リーダー業務もできません。」おしゃべりリーダーなのに?

 

「薬業務??間違えちゃうからできない。」仕事選ぶなよ。

 

「〇〇さんのことやっといてくれる?」お前が担当だろ?

 

「注射?老眼だから若い人に任せるわ。」老眼鏡持ってやれよ。

 

できない族のおばちゃん看護師。ときどき暴走する看護師もいて、気に入らないからと有給にして帰ってしまう人もいる。まさに暴走族。

 

これまた多いのが威張る看護師。特に新人には冷たい。新人に冷たいのは看護師の世界では多いが、女性特有の文化なのかもしれない。長く看護師やっててよく見るのは、自分がされて嫌なことを相手にする、自分が嫌なことをされると人一倍騒ぐ。これも看護師に多い。特に独身女子。

 

以前、あまりに新人をいじめるから全員の前で注意してやったら、うつ病で休職してしまった。そういう看護師に限って注意されると心がすぐに折れてしまう。そんなわけで、辛辣で魑魅魍魎が住む世界、それが看護の世界。

 

おばちゃん看護師すべてが悪いわけじゃないですよ。いい人もたくさんいます。明日も頑張ろう!

病は気から

「口の中チェックさせてください。」

 

「舌にまだ残っているよ。ちゃんと水で飲んで。」と強い口調の看護師。

 

精神科では見慣れた光景。ある意味独特な場面。食後に内服をしてもらうが、口の中に残ってないか確認する作業。

 

一般科では自分の薬は病気の良し悪しに直結するから内服をしない人はほとんどいない。精神科では薬自体を嫌う人もいて、内服したがらないことも多い。酷い人だとお菓子の袋一杯に薬を隠していた例もあるくらい。それだけに確認作業は必須。

 

始めて精神科に努めたときは一列になって内服確認する光景に違和感を覚えたのを今でも思い出す。

 

そんな中でも薬が好きな人もいる。それは薬物依存の患者さん。

 

「頓服薬ください。そわそわしちゃって。」と看護室へ時間を見計らってくる。

 

まさに依存症。薬物でハイになる感じがいいと患者さん本人から聞いたことがある。薬物依存を治す気がない感じ。看護師もその点は理解していて、状況によっては「SL」という名の乳糖を使うことがある。乳糖はただの砂糖。子供用に薬を甘くするのに使うけど、それを頓服薬に使ったりする。

 

「この薬ものすごい効果あるって先生話していたでしょ。すぐよくなるからね。飲んだら少しお部屋で休んでね。」と笑顔の看護師。

 

実際にこれが効いちゃうこともあるから、やはり「病は気から」なのかもしれない。同じ薬を渡していても新人の若い看護師が渡すよりも、年配の看護師が渡す方が効果が違ったりする。一般科なら若い看護師さんに渡された方が効くけど、精神科では年配の看護師の方が効きがいい。威厳の問題なのかと思う。

晴れ時々曇り、のち雨。

「ちょっと話したいことがある。」と真剣な顔で患者さん。

 

「実はね、この前5億円振り込まれたから、今度渡すね。」と。

 

依存症治療の病棟だが、たまに統合失調症?と思われる患者さんも入ってくる。

 

保護室に入ってて外部との接触がないのにどうして振り込まれたことがわかるんだろう?患者さんは信じて疑わない。話はさらにエスカレート。

 

「私は天皇さんと知り合いなの。だからなんでもできるの。お金も自由自在。」と。

 

どういうわけか、天皇やアラブの石油王、神様など権威のある人と知り合いが多い。妄想を助長しちゃうのであまり突っ込んで話を聞かないが、言っている本人は真剣そのもの。

 

精神科は「傾聴」すなわち患者さんの言動に心から耳を傾けることが求められる。しかし、傾聴ばかりはしていられないことも多い。これもまた精神科看護。病棟中に神様の知り合いばかりがいては、仕事にならない。

 

普段は本当に気の優しいいい患者さんなんだけどね。あちらの世界に飛び込んでしまうことがあります。それを引き戻すことも必要なんです。一般科みたいにサンズの川から引き戻すことはあまりないけど、パラレルワールドから引き戻すのが結構骨折るときもあります。

病棟内通貨

「お菓子をねだってくる人がいるから注意してください。」

 

そう言ってくる患者さん。その患者さん、かなり入院して太った。

 

明らかにお菓子の食べ過ぎだからだ。普通に病院食だけだったら太らない。依存症で入院した人が唯一気分転換できるもの、それはお菓子。肝臓を壊して入ってきているのに、フォアグラ並みに脂肪を蓄えた肝臓を入院生活で作り出してしまう。

 

お菓子はある意味病棟内では「通貨」

 

その通貨を持って日用品と交換したり、本と交換している。看護師も注意はしているけど、そこまで手が回らない。だから冒頭書いたように患者さん同士でお菓子をねだったりして、トラブルも起こる。

 

アルコール依存で入院した患者さんは栄養失調の人も多い。アルコールを飲んで、食事をとらない人も多いから。最近ではガリガリに痩せた女性で、歩くこともできないくらい衰弱して入院してきた人もいるくらい。その患者さんは牛乳にアルコールを入れて飲んでいたから栄養は十分取れてたとか謎の発言しちゃうくらい自覚がなかった。

 

そんな患者さんたちも長い入院生活で「通貨」をうまく利用して日常生活を充実させ、肥えていく。病院で糖尿病予備軍になるんだから、何しに来てるのか意味が分からない。

 

もっと魅力あるプログラムをすることも必要なのかもしれない。そう肥えた患者さんをみて思う今日この頃。

夜中に不穏・・

「何とかしてくださいよ。」

 

平和な夜勤を脅かす患者さんの一言。

 

看護室でのんびり新聞を読んでいたのに、同じ部屋の数名が看護室に抗議にきている。内容は同室者が消灯後も飴玉をガリガリ食べていて寝れない。うるさい。とのこと。

 

部屋に向かうと自分の荷物をあさっている。お菓子を食べながら。消灯後なので、懐中電灯で本人を照らすと、大きなネズミがごみをあさっているような姿。

 

「部屋を変えましょうか」と優しく誘導。

 

本人は無言だが、お菓子をぼりぼり食べながらの移動。

 

この患者さん、夜間せん妄が酷くて保護室でも問題になっていた。夜中になると壁に貼って見たり、「今から火を焚くから・・」などわけわからない状態が続いていた。保護室が緊急用件で必要で、この患者さんを出したらしい。まだ早いだろうという夜勤者の一致した意見だったがそれが運悪く当たってしまった。

 

部屋を移動して眠剤と不穏の際に飲ませる薬を飲ませて何とか落ち着いた。使える手は何でも使うのが私の看護方針。使わないで躊躇したほうがより混乱を招くし、患者さんも落ち着かなくてかわいそう。ということで、私は使える手はすべて使い、それでも怪しい場合は前もって医師に注射の指示をもらったりしている。夜勤は案外スリリング。身を守る手立ては必要。それが精神科。

 

 

ちょっと落ち着いたかと思ったら、同室だった患者が

「こんな人部屋に入れないでよ!!」と怒り狂って看護室にきた。

 

自分を自制できない患者さんも多い。この人は麻薬依存で自制する部分がやや弱い。それだけに刺激に対しても過敏に反応してしまう。話を聞いて、不穏時薬を飲ませて一件落着。

 

 

一連の流れで1時間くらい収めるまでにかかった。荒れた日は少ないが、こういうときは結構つかれてしまう。夜勤はまだ始まったばかり。