アディクション看護師の日日是好日

依存症治療病棟で起きる日々の出来事を日記のように書いてます。

趣味

「明日は10レース、3を軸に・・・」

 

と競馬の予想を電話で話している患者さん。

 

精神科特有で閉鎖病棟には今はあまり見かけなくなった公衆電話が置いてある。通信の自由があるが、携帯電話の使用はできない。たまに警察や消防に電話してしまって、公衆電話が逆になったりすることもある。

 

公衆電話のところを通りかかったら、友人か家族かわからないけど競馬の予想を伝えていた。

 

その患者さんが朝からスポーツ新聞を真剣に読んでいたから、夜勤中に話しかけてみた。

 

「競馬好きなんですか?」

 

「ええ、まあ。趣味だけどね。」と苦笑いしている。

 

それからというもの、週末になると競馬の話題を話すようになった。頭が切れる人で、有名な大学を卒業している。実に理論的で、聞いていて面白い。アルコール依存じゃなくてギャンブル依存じゃないかと思うくらい競馬にのめりこんでいるみたいだった。しかもこの人が凄いのは的中率。予想が7割近く当たる。しかも結構高配当な馬券も当ててた。

 

アルコール依存の勉強での一コマ。この患者さんが自分の意見を話す中で「競馬は学生のころから研究会みたいの入ってやってたんだよ。就職して仕事が忙しくて、競馬場にも行けなくなって、なんのために働いているかわからなくなってお酒飲んじゃったんだ。」と。

 

趣味を持つことが本当に必要なんだと思う。女性は生まれ持った趣味「会話」が備わっているが、男性はとかくそういう趣味は性格上持ち合わせてない。男性は人に干渉しない生き物だから。それだけに趣味を持つこと、それを持続できることが大切なのかもしれない。アルコール依存の人を見てきているが、趣味に近いものを持っている人が圧倒的に少ない。趣味を持っていても仕事に忙殺されて、身近なアルコールに趣味がかわってしまった人も多い。

 

働き方改革なんて言っているけど、サービス残業は当たり前。給料は増えないし、身近なもので快楽が得られるものに手を付けたくなる理由もよくわかる。社会が未来に希望を持てなくなっているのかなと患者さんをみていると思う。

あだ名

「すみませ~ん」と看護室に暗い顔で訴えてくる。

 

「落ち着かないんで薬もらえますか??」

 

「さっきまでTV見て笑っていたでしょ。薬は必要ないでしょ。笑ってる余裕のある人には渡しません。就薬まで待っていなさい。」と看護師

 

もともとはゲーム依存で入ったこの患者さん、IQも低いせいか理解力が乏しい。一度頓服薬の味を覚えたら、頻回にもらいに来るようになった。依存症治療にきて、薬物依存になっているからどうしようもない。

 

訴えが多い患者にはめんどくさがってすぐに薬を渡してしまう看護師も多い。飴玉を子供にやるような感覚で理由も聞かずに渡してしまう。何も言わずどんどん薬を渡す看護師を「薬の売人」と患者の間では言われている。

 

患者さんは看護師の行動をよく見ていて、それぞれに合ったあだ名をつけているらしい。化粧が濃いから「Matt」、ガタイがいい男性スタッフを「弁慶」、昔きれいだっただろうと「聖子ちゃん」など。

 

看護師も患者さんにあだ名をつけたりしている。患者さんのいる前じゃ言えないが、看護室内ではあだ名で盛り上がる。髪型が落ち武者みたいだからと「落ち武者」、入院時にぼさぼさ頭と髭がはえていて、山で住んでいて逮捕されて運ばれてきたから「仙人」、家族が間違えて小児用のおむつを送ってきたから「ムーニーマン」など。

 

私も何かしらあだ名が付けられているだろうけど、教えてくれなかった。何て言われてるんだろな~

仏と不動明王

「看護師さん~すみません~」と作業療法士から呼び出し

 

患者移動や入院が重なって忙しいので看護師が応えない

 

「お願いします~。倒れちゃってます。」と少し切迫した声で看護師を呼び出す。

 

たまたま目が合ったので行ってみると、プログラムで集まった患者さんのど真ん中で天を仰いで倒れている。この患者さんはパニック発作でしょっちゅう倒れているから、看護師も冷静。焦る作業療法士を見ながら看護師の一人がきつい一言。

 

「はいはい、起きなさい!!自分で起きて!!起こさないわよ。」

 

患者さんは依然フリーズ状態。プログラムも中断しているため、車いすに乗せて病室へ。病室に行くころには意識もはっきりしてきた。

 

患者さんの中には知的障害やADHDなど社会的な規範を守れない人も多い。特に薬物依存の患者さんにはその傾向が強い。このところよく来ている大麻使用で入院している患者さんは対人関係を気づくのが苦手で、行動障害が少なからずある人がほとんど。しかも若い患者に多い。この倒れた患者さんも比較的若い部類で、IQがやや一般的より低い。ストレスをコントロールするのが苦手で、ストレスが閾値を超えるとすぐに倒れてしまう。

 

余談になりますが、高校生の大麻使用者は全国平均で300人に1人いるそうです。研修でそんなこと言ってたの思い出した。普通に1校に1人はいる計算になるから恐ろしい。

 

意識が回復したら今度は銃弾爆撃のようによくしゃべる。「部屋でいじめられてる。」「あの人といるとおかしくなる。」「食事は食べる気しないから止めてほしい。」訴えと要求のオンパレード。

 

呆れた看護師が最後はぴしゃり。

 

「食べなくてもいい。普段お菓子食べ過ぎなくらいなんだから、痩せるいい機会でしょ。嫌なら残しなさい。食事は止めないからね。」と。普段は仏のような看護師さんですが、時に不動明王的な一面も見せる。

 

精神科看護師にはそういう優しさと厳しさが必要だと思う。一般科では病気を治すことがメイン。精神科でも病気を治す治療をするが、さらに精神科では人を改めて育てなおすという側面もある。今日もいい勉強になったな~。

専門家の集まり

「ここはちょっと違いますね。〇〇さんとこはどうでしたか?」

 

専門用語が飛び交う食堂内。アルコール依存症の元自衛官たち。

 

階級は様々。3等海尉から2等陸曹まで定年まで勤めた人まで数人がたまたま一緒になって話していた。きっかけはロシアの進行で戦車の話が出たときみたい。普段は我関せずで、本読んだりして適当に過ごしているみたいだったけど、意気投合したみたいで自衛隊話に花が咲いてるみたいだった。あそこの基地は飲み屋が少ないとか、繁華街がしょぼいとか、アルコール依存症の治療にきているとは思えない会話も結構あった。

 

仕事しながら時々話を聞いていた。本当に専門職で、職人というレベルの人たち。アルコール依存になってなければ、もっと出世やいい職につけたのにな~なんて思ってしまった。

 

個々にアルコール依存になったきっかけを見ていると共通しているのが、不規則な勤務と体育会系の飲み会。たくさん上司から飲まされて、断ることもできない体質の職場だったみたい。まだパワハラなんて言葉もない時代から頑張って働いていた、ある意味で犠牲者なのかもしれない。

 

アルコール依存症の患者さんで公務員が多いな~と思うことがあります。それだけプレッシャーがあるのかもしれない。お酒が抜ければ本当に紳士だったひともいる。アルコールは誰でもどこでも手ごろに買える正規の薬物。逃げ場がない時はどうしても頼ってしまうのかもしれません。アルコール以外に自分を逃がす場を見つけてもらうのも看護師の役目だけど、仕事とお酒で生活してきた人に別の物を見つけてもらうのは本当に大変。

 

案外いろいろな趣味を持って、適当に過ごしている方がストレスなく行けるのかもね。

【精神科看護師アルアル】看護師2軍

「今日は血圧が高いから休むそうです。」と夜勤者から報告

 

「彼女血圧高かったもんね。心臓大丈夫なのかしら?」と看護師さん。

 

まるで介護施設の話題かと思う内容だが、病棟での一コマ。精神科で特に慢性期だったりする病院は一般病棟をリタイヤした看護師さんが、働き場所を求めてくることが多い。若い人も結構いるが、一般病棟ではやっていけなかった人が集まることも多い。心の病気を扱うのに、心の病気を持っている人も少なからずいる。

 

一般病院に勤めている知り合いの看護師にこんなことを言われたことがある。

 

「精神科の看護師って、看護師2軍だよね。」と。

 

そう言われちゃうと答えようがなかった。確かに2軍の側面もある。ただ、そういう看護師に限って精神科のリアルを知らないことも多い。一軍の看護師さんは処置ができたり、薬の名前をたくさん知っていたり、病態にだって精通しているだろう。精神科は患者と遊んでいればいいみたいな間違った認識も多い。実際は暴れたり、自殺したり、内科疾患で突然倒れたり、専門性がある分知識や技術もあります。

 

おばあちゃんたちの集まりな部分も認める。この前、休憩時間におばあちゃん看護師からもらった煮物が滅茶苦茶うまかった。一般科病院では休憩も取れないから、ありえないのどかな光景。それもまた精神科病棟。

 

若手も最近精神科を希望する人がふえてきました。私が関わりだしてからも増えてきた気がする。若い人がもっと積極的に勉強して引っ張って行ってほしい。自分も若手にはもてる知識を教えていきたい。いずれ精神科看護師が「2軍」と言われない時代を作っていきたい。

ココはホテルじゃないです。

「22時になったら追加のお薬もらえるんですよね。22時になったら起こしてください。」と保護室に入っている患者さん。

 

「ここはホテルじゃないです。」とは言えず、「起こすことはしませんよ。」と。言っている自分の顔が引きつっているのが分かった。

 

もう入院は何回目?保護室も何度も入ってますよね。それでも普通の顔して要求してきちゃうところがなんとも言えない。精神科に限った話じゃないけど、病院を宿泊施設かなにかと勘違いしている人も多い。病院側も「患者様」とか言って「お客様」扱いしているからかもね。対等な立場で治療していくから「患者さん」でいいはず。

 

もう長いこと看護師やっているが、患者さんも「お客様」気質の人が増えてきた。公務員だった人や少し立場が上だった人にその傾向が多い。権利をとにかく主張するけど、いざ医療の話になると全然話せなかったりする。家族も含めてイエスマンしかいない状況で抑制できる人がいなかったんだろう。

直行便

「お迎えお願いします~。男性2名でだって。」と病棟クラークさん。

 

男性2名。外来から男性看護師を複数名呼ぶときは暴れることもある患者さんが来ている警告サイン。入院に納得していない患者さんの場合は外来から病棟に連れてくるまでが一苦労の場合も多い。

 

当日朝には入院に納得しているか、どこから来るのかが少しだけわかっている場合が多い。今日の入院予定は「〇〇警察署から直接入院」と書かれていた。

 

「入院なんか納得してるわけないだろ。」と廊下まで響く声ですでに騒然としている。外来の診療室に入ると私服の警察官、市役所職員、保健所職員に囲まれて、医師が入院の必要性を説明している。興奮して医師の話なんか聞いちゃいない。

 

こんな時はまずは落ち着かせるのがセオリー。

 

が、ここで若い警官が「先生の話をちゃんと聞け!!」と興奮している患者さんに言ったもんだからさらにヒートアップ。「拘置所です巻にしやがって!!警察が何やったか訴えてやるからな!!」と警官に詰め寄る。「余計なことしやがって」と思いながらも警察官に「出ててもらっていいですか?」と丁重に話して廊下へ誘導。

 

興奮冷めやらないから、医師も空気を読んだみたいで「治療しますから入院になります。病棟行きましょう。」と。外来で怪我でもされては困るから、男性看護師が囲んで病棟へ連れていった。病棟に連れていく最中ずっと警察の文句を言ってた。

 

 

入院時は大暴れしていた患者さんでしたが、入院してからはとても大人しい文学少年。小説をずっと読んで笑顔で看護師に対応してくれる。

 

「私はもともと大人しい性格なんですよ。あの時はね、拘置所です巻にされて、理由も聞かずに押さえつけられて興奮したんですよ。お酒?そりゃ飲んでましたけど、少しだけですよ。」と。警察署から直行便で来る人は自分のことがよく見えてない人がほとんど。入院紹介の書類にはお酒に酔って、器物破損やらで大騒ぎになった挙句、パトカーの中のアクリル板まで壊していたらしい。

 こういう人にアルコール依存について理解させていくのは正直難しい。自分のことじゃないと思っているところが、最大の敵。物理的にお酒から遠ざけるしかないと思うけど、本人から近づいてしまう。治療後に行く施設はいろいろあるけど、こういう人は本当に山奥で農作業をしてもらう方が治療になるんじゃないかといつも思う。この患者さんは真面目な側面もあるから、ちゃんと仕事を用意してあげればうまくやっていけると思うんだけどね。